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福島地方裁判所 平成4年(行ウ)11号 判決

福島県郡山市大槻町字中ノ平五九番地

原告

佐藤武

同所同番地

原告

佐藤留治

右両名訴訟代理人弁護士

安藤裕規

安藤ヨイ子

齋藤正俊

同市堂前町二〇番地一一

被告

郡山税務署長 北島信次

右指定代理人

黒津英明

阿部覚己

成瀬利重

千葉泰夫

渡辺義弘

佐藤勇一

新田公夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告が原告佐藤武に対し平成三年五月一五日付けでなした同人の平成元年度分の所得税更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分はこれを取り消す。

二  被告が原告佐藤留治に対し同日付けでなした同人の平成元年度分の所得税の更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分(平成四年六月二五日付け審査裁決により取り消された部分を除く)はこれを取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  本件の概要

本件は、土地を譲渡した原告らがなした確定申告について、被告が原告らの申告した分離長期譲渡所得の金額及び所得控除額が不当であるとしてそれぞれ更正処分並びに重加算税及び過少申告税の賦課決定をなしたところ、原告らが、右各処分の通知には処分の理由及び調査結果が記載されておらない上、被告が算定した分離長期譲渡所得は過大であり、また、原告佐藤武については保証債務の弁済金が控除対象とされておらず、右各処分はいずれも違法であるとしてその取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告佐藤武(以下「原告武」という)は、平成元年分の所得税について、別表一の確定申告欄記載のとおり、原告佐藤留治(以下「原告留治」という)は、同年分の所得税について別表二の同欄記載のとおり、それぞれ法定申告期限までに確定申告した。

被告は、これらに対し、平成三年五月一五日付けで、原告武について別表一の更正及び加算税の賦課決定欄記載のとおり、原告留治について別表二の同欄記載のとおり、更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下原告武に対する右処分を「原告武に対する本件処分」という)をそれぞれなし、その各通知書は同月一七日原告らに送達された。

2  原告らは、右それぞれの処分を不服として、平成三年七月一一日、異議申立てをしたが、被告は、同年一〇月九日、右各申立てをいずれも棄却した。

そこで、原告らは、同月一九日、同月一八日付申立書をもって国税不服審判所長に対しそれぞれ審査請求をなしたが、同所長は、平成四年六月二五日、原告武に対して審査請求を棄却する旨の、原告留治に対して別表二の審査裁決欄記載のとおり課税処分を一部取り消す旨の裁決(以下裁決により一部取り消された後の原告留治に対する前記更正処分及び賦課決定を「原告留治に対する本件処分」という)をそれぞれなした。

三  原告らの主張

1  原告らの送達された本件各処分の通知書の「処分の理由」欄には何ら記載がされておらず、被告がなした本件各処分の根拠は不明であり、理由が記載されていない通知書は、租税法定主義、適正手続きによる課税処分の原則に違反する。また、国税通則法二八条二項、三項は「調査によるときはその旨附記しなければならない」と規定しているのであるから、更正決定の公正さ、正当性、合理性を裏付ける理由もしくは調査の結果の記載のない本件各処分は違法である。

2  原告武に対する本件処分の違法性

(一) 売買金額について

原告武は、橋本政寅(以下「政寅」という)に対し昭和六三年一〇月八日別紙物件目録記載の(1)の〈1〉〈2〉〈3〉の土地(以下「本件(1)の土地」という)を売買金額二二七一万円で、平成元年七月二五日同記載(2)の〈4〉〈5〉の土地(以下「本件(2)の土地」という)を売買金額一二九八万円でそれぞれ売り渡した。原告武が右各売買契約で得た総収入は三五六九万円である。

(二) 所得税法六四条二項の適用について

原告武が、本件(1)(2)の土地の売買代金の一部である二九五〇万四二四八円を主債務者を原告留治とする保証債務の弁済に当てた経緯は以下のとおりである。

原告留治は、昭和五九年ころ農業を営み、妻、養父母(養父は原告武である。)及び四人の子供と生活していたが、子供たちの進学による経済的負担が大きく、昭和六一年ころまでの間に原告留治の釣堀営業資金を含めて約一〇〇〇万円の借り入れをした。さらに、原告留治は、大槻町に温泉が出たことを聞き及び、自分も温泉を堀り当て旅館や保養施設を建設し事業を起こそうと計画し、そのための福島県知事の許可を得、昭和六一年七月事業資金として郡山信用金庫から三〇〇〇万円を借り入れた。原告武は、右借り入れにおいて、原告留治のために連帯保証及び物上保証をした。

しかし、昭和六一年九月ころ、原告留治は、部落の住民に勧められ、翌年四月に行われる郡山市議会議員選挙に立候補することを決意したため、右事業は中止となった。原告留治は、右事業のための借入金は議員歳費をもって返還しようと考えてそれを選挙費用に流用したものの、落選して右借入金の返済が滞るようになった。

そこで、原告留治は、昭和六三年八月二二日、債務整理のために郡山市大槻農業協同組合(以下「農協」という)から三八〇〇万円を借り入れ、原告武は、そのために連帯保証及び物上保証をした(以下「本件保証債務」という)。

ところが、原告留治には右債務を履行する能力がなくなったため、原告武は、農協に対し、本件(1)(2)の土地の売買代金の一部で右保証債務を弁済した。そして、原告留治に対する求償権を放棄し、同人の原告武に対する債務を免除した。

以上のとおりであるから、原告武がした本件(1)(2)の土地譲渡は本件保証債務を履行するための譲渡であり、所得税法六四条二項に該当し、同債務の弁済に充てた二九五〇万四二四八円は分離長期譲渡所得の算定にあって控除されるべきである。

(三) 以上により、原告武の分離長期譲渡所得の金額は、本件(1)(2)の土地の各売買代金三五六九万円から保証債務弁済費用二九五〇万四二四八円、取得費一七八万四五〇〇円及び特別控除額一〇〇万円を控除した三四〇万一二五二円であり、これに農業所得の五八万二四一四円を加えた三九八万三六六六円が同原告の合計所得金額である。そして、所得金額が一〇〇〇万円を超えていないのであるから配偶者特別控除額三五万円、老年者控除五〇万円等の所得控除額合計一九六万二三七七円を控除すると、同原告の納付すべき税額は四〇万四二〇〇円である。

しかるに、被告は本件(1)の土地の売買金額を三四八二万円、本件(2)の土地の売買金額を一九四七万円と認定し、分離長期譲渡所得の総収入を過大に認定した上、保証債務の弁済額を控除することなく分離長期譲渡所得の算定をし、合計所得金額(分離長期譲渡所得は特別控除額控除前のもの)が一〇〇〇万円を超える場合として、納付すべき税額を算定し、更正処分をなした上、重加算税及び過少申告加算税の賦課決定をなした。

したがって、本件(1)(2)の土地の売買金額を過大に認定し、保証債務の弁済金額を控除せずになした原告武に対する本件処分は違法である。

(なお、取得費の算出方法、被告が認定した契約に要した費用の額については争いはなく、また、原告武に対する本件処分において、同原告が配偶者控除を四五万円としたところを被告が三五万円として算定している点についても原告武は争わない。)

3  原告留治に対する本件処分の違法性

原告留治は、政寅に対し、昭和六三年一〇月八日別紙物件目録記載の(3)の土地(以下「本件(3)の土地」という)を売買金額四三五万円で、平成元年八月三〇日同記載の(4)の土地(以下「本件(4)の土地」という)を売買金額一一六二万五〇〇〇円でそれぞれ売り渡した。

原告留治が右各売買で得た総収入は一五九七万五〇〇〇円であるから、取得費七九万八七五〇円、譲渡に要した費用四九万二〇〇〇円及び特別控除額一〇〇万円を控除すると、同原告の分離長期譲渡所得の金額は一三六八万四二五〇円であり、これに営業所得の金額八二万一二八一円を加えた一四五〇万五五三一円が同原告の合計所得金額である。そして、配偶者特別控除額三五万円等所得控除額合計一一〇万円を控除すると、同原告の納付すべき税額は二六八万一〇〇〇円である。

しかるに、被告は、本件(3)の土地の売買金額を六一八万円、本件(4)の土地の売買金額を一七八二万五〇〇〇円と認定し、それに基づき納付すべき税額を算定した更正処分をなした上、重加算税及び過少申告加算税の賦課決定をなした。

したがって、本件(3)(4)の土地の各売買金額を過大に認定した原告留治に対する本件処分は違法である。

(なお、原告留治に対する本件処分において、被告は原告留治の合計所得金額(分離長期譲渡所得は特別控除額を差し引く前のもの)が一〇〇〇万円を超えることから配偶者特別控除三五万円を適用していないが、原告留治は合計所得金額が一〇〇〇万円を超えることを認めており、この点について争いはない。)。

4  よって、原告武及び同留治に対する本件各処分はいずれも違法であるから、原告らはそれぞれその取消を求める。

四  被告の主張

1  通知書の理由及び調査結果の附記について

国税通則法二八条二項、三項の規定は、更正処分が国税局または国税庁の調査に基づく場合にその旨を附記しなければならないとするものであって、原告武及び同留治に対する本件各処分は税務署の職員の調査に基づく更正処分または決定であるから、その旨の附記は必要とされていない。

よって、原告らの右主張は失当である。

2  原告武に対する本件処分の適法性

(一) 売買代金について

原告武は、本件(1)の土地は、昭和六三年一〇月八日原告武から政寅に譲渡された後、同年一一月二五日同人から齋藤惣助(以下「惣助」という)に代金三四八二万円で転売され、また、本件(2)の土地は平成元年七月二五日原告武から政寅に譲渡された後、同年九月一三日同人から橋本一士(以下「一士」という)に代金一九四七万円で転売されたと主張し、原告武の本件(1)(2)の土地売買金額は政寅に対する譲渡代金の合計三五六九万円であるとして分離長期譲渡所得の合計を算出している。

しかしながら、政寅は転売利益を享受しておらず、惣助の支払った売買代金はすべて原告らに渡っているのであり、原告武と政寅との間の各売買は架空取引で、原告武は、昭和六三年一一月二五日惣助に対し本件(1)の土地を売買代金三四八二万円で、平成元年九月一三日一士に対し本件(2)の土地を売買代金一九四七万円で、それぞれ直接譲渡したものである。

したがって、原告武の分離長期譲渡所得における総収入金額の合計は右各売買代金の合計五四二九万円である。

(二) 所得税法六四条二項について

原告武は、右各売買代金の一部である二九五〇万四二四八円を主債務者を原告留治とする保証債務の弁済に充てたとして、所得税法六四条二項を適用してその額を分離長期譲渡所得の算定において控除している。

ところで、同項の適用には、保証人が保証債務を履行するため資産を譲渡したこと及び保証人が保証債務の履行に伴う求償権の全部または一部を行使することができないこととなったとき二つの要件が必要とされ、保証人が保証債務契約時において、すでに主たる債務者に資力がなく保証債務の履行による求償権の行使が不可能であることを知って保証したものである時には、当初から主債務者に対する求償権を前提としていないのであるからその適用はない。そして、右求償権の行使が不可能であるか否かの判断は、履行された当該保証契約の締結時の状況によるべきである。主債務が主債務者の債務整理のための借り換えによるものであり、保証人が整理される債務についてすでに保証人となっていた場合であっても、保証人は、新たな保証契約を締結して保証債務を発生させたのであるから、保証人が主債務者に資力がないことを認識していた時期は当該保証契約の時を基準とすると解すべきである。

そこで、原告武について同項の適用があるかをみるに、原告武の保証債務の履行は、同原告が昭和六三年八月二二日農協と締結した保証契約に基づくものであるところ、主債務者の原告留治は、昭和六二年八月二〇日以前にすでに債務超過となって債務の返済が困難な経済状況であり、しかも同人所有の不動産には金融機関による担保権が設定されており、これに劣後する求償権の行使は事実上不可能となっていた上、原告留治は事業に失敗し、郡山市議会議員選挙にも落選して将来の収入を得られる見通しも全く立っておらないという状況にあった。そして、原告武は、原告留治の右資産状態を把握し、求償権を行使してもその目的を達することができないことを知りながら本件保証契約を締結したものであるから、本件保証債務の履行について同項の適用はない。

(三) 以上により、原告武の分離長期譲渡所得金額は、総収入金額五四二九万円から、取得費二七一万四五〇〇円、譲渡に要した費用一一二万二六〇〇円及び特別控除額一〇〇万円を控除した四九四五万二九〇〇円である。そして、総所得金額(農業所得の金額)五八万二四一四円と特別控除額を差し引く前の分離長期譲渡所得の合計が五一〇三万五三一四円となり、一〇〇〇万円を超えるから、所得控除額について配偶者特別控除三五万円及び老年者控除五〇万円はいずれも適用されず、所得控除額の合計は一一一万二三七七円であり、納付すべき税額は一〇一三万三〇〇〇円である。

さらに、原告武は、本件(1)の土地を惣助に、本件(2)の土地を一士に合計五四二九万円で譲渡したにもかかわらず、政寅に合計三五六九万円で譲渡したとの土地売買契約書を作成し、それに基づいて確定申告をしたのであるから、原告武の行為は、国税通則法六八条一項の隠蔽しまたは仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに該当し、重加算税の課税要件を充足し、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められず、過少申告加算税の課税要件を充足する。原告武の重加算税は一二一万四五〇〇円、過少申告加算税は九一万二五〇〇円である。

したがって、右金額と同額でなされた原告武に対する本件処分は適法である。

3  原告留治に対する本件処分の適法性

原告留治は、本件(3)の土地は、昭和六三年一〇月八日同原告から政寅に譲渡された後、同年一一月二五日同人から惣助に代金六一八万円で転売され、また、本件(4)の土地は平成元年八月三〇日原告留治から政寅に譲渡された後、同年一〇月二四日同人から有限会社安中レヂデンス(以下「イヂデンス」という)に代金一七八二万五〇〇〇円で転売されたと主張し、原告留治の本件(3)(4)の土地売買金額は政寅に対する譲渡代金の合計一五九七万五〇〇〇円であるとして分離長期譲渡所得の合計を算出している。

しかしながら、惣助及びレヂデンスが支払った売買代金はいずれも原告らに渡っており、政寅はいずれの転売利益も得ておらず、原告留治と政寅との右各売買は架空取引で、原告留治は、昭和六三年一一月二五日惣助に対し本件(3)の土地を売買代金六一八万円で、平成元年一〇月二四日レヂデンスに対し本件(4)の土地を売買代金一七八二万五〇〇〇円で、それぞれ直接譲渡したものである。

したがって、原告留治の分離長期譲渡所得は、右各売買代金の合計二四〇〇万五〇〇〇円から、取得費一二〇万〇二五〇円、譲渡に要した費用四九万二〇〇〇円及び特別控除額一〇〇万円を控除した二一三一万二七五〇円である。そして、総所得金額(営業所得の金額)八二万一二八一円と特別控除額を差し引く前の分離長期譲渡所得の合計が二三一三万四〇三一円となり、一〇〇〇万円を超えることから、所得控除額について配偶者特別控除は適用されず、所得控除額の合計は七五万円であり、納付すべき税額は四二六万九五〇〇円である。

また、原告留治は、本件(3)の土地を惣助に、本件(4)の土地をレヂデンスに、合計二四〇〇万五〇〇〇円で譲渡したにもかかわらず、政寅に合計一五九七万五〇〇〇円で譲渡したとの土地売買契約書及び不動産売買契約書を作成し、それに基づいて確定申告をしたのであるから、原告留治の行為は、国税通則法六八条一項の隠蔽しまたは仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに該当し、重加算税の課税要件を充足し、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められず、過少申告加算税の課税要件を充足する。同人の重加算税は五三万二〇〇〇円、過少申告加算税は六〇〇〇円である。

したがって、右金額と同額でなされた原告留治に対する本件処分は適法である。

五  争点

1  通知書に処分の理由及び調査結果が付記されていない更正処分及び賦課決定は違法か否か。

2  原告らの分離長期譲渡所得金額の算定となる総収入金額である本件各土地の売買金額の認定(原告らと政寅との各売買契約が架空取引であるか否か)。

3  原告武がした保証債務の弁済について、所得税法六四条二項の特例が適用されるか否か。

第三争点に対する判断

一  通知書の附記について

国税通則法二八条二項は更正処分通知書の記載事項を定めているところ、同項はその記載事項中に更正の理由を掲げていない。なお、同法二八条二、三項は、決定が同法二七条の調査に基づくものであるときはその旨附記しなければならないと規定している(これは更正処分に対し同法七五条に従って不服申立てする場合に、異議申立てをするか、あるいは審査請求をするかを決するのに必要な事項の記載であり、処分理由の明示を定めたとは解されない。)ところ、本件においては国税庁または国税局の職員による調査が行われておらないから、右規定に基づいて附記する場合にも当たらない。

乙三、四を調べても、本件各更正処分の決定書に必要的記載事項の欠缺はなく、原告らの主張は理由がない。

二  原告留治、鈴木実乗(第一回、二回)、安中宥享、齋藤惣一、橋本一士、甲五ないし一一、一三ないし二〇、二二、二六ないし二八、三一ないし三四、乙一ないし二四、二六、二七、二九、三一、三二によれば以下の事実が認められる。

1  原告留治の借入、原告武の債務保証等の経緯について

原告留治は、妻、四人の子供、養父である同武夫妻と同居し、昭和五三年ころから釣堀業の経営を始め、その傍ら、原告武名義で同人と農業を営んでいた。

原告らは、昭和五九年ころから前後していずれも脳血栓に罹ったことや原告留治の子供たちの進学が重なったことから経済的負担が増し、同原告は、昭和五九年から同六一年にかけて、子供たちの教育資金あるいは釣堀の経営資金を調達するために農協から、別紙借入金等明細書1ないし4のとおり合計一五三〇万円を借り入れた。

また、原告留治は、大槻町に温泉が出たと聞き、釣堀の経営が思わしくなかったことから温泉のボーリングをしようと考え、昭和六一年七月ころ本件(3)の土地に根抵当権を設定して郡山信用金庫(以下「信用金庫」という)から三〇〇〇万円を借り入れ、その際原告武は、連帯保証及び本件(1)の〈1〉〈3〉の土地を担保提供し根抵当権を設定した(甲五、六、一〇)。

ところが、原告留治は、温泉のボーリングに着手しないうちに、翌六二年四月に行われた郡山市議会議員選挙に立候補し、信用金庫からの借入金の大半を選挙資金として費消したが、同原告は当選せず、併せて温泉のボーリング事業も中止した。

そして、原告らは、昭和六一年八月ころから、原告留治の債務整理のために原告ら所有の不動産の売却方を検討し始めたが、買受人が見つからず、そのため、同六二年八月二〇日、原告留治は、本件(4)の土地につき従前からの根抵当権の極度額を七五〇〇万円に変更し、さらに追加担保として本件(3)の土地につき七五〇〇万円の根抵当権を設定して農協から三五〇〇万円を借り受け、信用金庫に対する債務をすべて返済した(甲五、七、二二、二六)。この三五〇〇万円の借り入れにおいて、原告武は、連帯保証をするとともに、本件(1)(2)の土地を担保提供し、極度額七五〇〇万円の根抵当権を設定した(甲六、八ないし一一)。

また、原告留治は、同六三年五月六日にも、農協から経済資金名下で新規に二〇〇万円を借り入れ(別紙借入金等明細書5)(甲二三、二七)、同六三年八月二二日、前記三五〇〇万円の借入金整理の目的で、新規に農協から三八〇〇万円を借り入れ(別紙借入金等明細書6)た。原告らは、前記設定の根抵当権の極度額を七〇〇〇万円から九五〇〇万円に変更した(甲五ないし一一)。そして、その借入金で前記三五〇〇万円及びその利息を弁済した(甲二四、二八、二九)。

2  本件(1)(3)の土地の売買等について

(1) 昭和六三年ころ、惣助と息子の齋藤惣一(以下「惣一」という)は、不動産業者である星喜助(以下「星」という)に対し、農地購入の仲介を依頼していたところ、同年一一月二三日ころ、同人から本件(1)(3)の土地を紹介された。惣助父子は、指し値に沿う売買物件であったので、その購入を決め、惣助名義で契約することとし、なお当時同人が病気であったため、交渉等の実務は息子の惣一が行った。同人は、本件(1)(3)の土地は原告らの所有と聞いており、売主は原告らであると認識していた。

(2) 昭和六三年一一月二五日、原告ら宅に、原告留治、政寅、惣一、星及びその同業者で原告らに土地売買の話を持ちかけていた鈴木実乗(以下「鈴木」という)が集まり、土地売買契約書二通(乙一七、二二)が作成され、土地を合計四一〇〇万円で惣助が買い受けた。惣一は、前日に鈴木を紹介されていたのみで、原告留治、政寅とはこの日が初対面であり、契約書を見て初めて売主が政寅名義となっていることを知った。

(3) 同日、惣一は、政寅の指示により、手付金として本件(1)の土地について八〇〇万円、同(2)について二〇〇万円として合計一〇〇〇万円を郡山市内の大東銀行本店で原告留治に支払い、同人は、そのうち九〇〇万円を信用金庫の同人名義の預金口座に入金した(乙二九の四)。

(4) そして、政寅には農地取得資格がないので登記名義は原告らから惣助に直接に移転するとの触れ込みで、原告留治、惣一及び鈴木が司法書士事務所に集まり、農地取得の許可申請及び登記申請のための書類を作成し、その後、右申請手続を行った。その後、農地取得の許可が下りたため、平成元年二月二八日、惣一は、原告留治の指示で、売買残代金を、農協の原告武名義の口座に一八三一万円、同留治名義の口座に三五〇万円、信用金庫の同原告名義の口座に九一九万円の合計三一〇〇万円を送金した。

一方、原告留治は、同日、右三一〇〇万円及び九〇〇万円のうち三五〇六万円を各口座から払い戻し、農協に、別紙借入金等明細書の5、6〈1〉のとおり合計三五〇〇万円の弁済をした(甲三三、三四、乙二九の三、五、六、三一の二、三、八、九)。

3  本件(4)の土地の売買等について

(1) レデデンスは不動産取引を業とする有限会社であるが、平成元年一〇月、鈴木から本件(4)の土地の売買を持ちかけられた。レヂデンスの代表者である安中宥亨(以下「安中」という)は、契約前に登記簿謄本を示されて原告留治が所有者であること、なお政寅が売主名義人となる旨の説明を受けたが、このような方式の取引は過去に何度もあったことから、特別気にも留めず買受けを決めた。

(2) 平成元年一〇月二四日、レヂデンスの事務所に安中、政寅、鈴木が集まり(原告留治が同席していたか詳らかでない)、土地売買契約書(乙二三)が作成され、同社は、土地を一七八二万五〇〇〇円で買い受ける契約を締結し、その場で、手付金二〇〇万円が現金で支払われた。

(3) 同年一一月九日、安中、政寅及び鈴木が右事務所に集まり、そこで農地取得の許可申請手続あるいは登記手続書類が作成され、残代金一五八二万五〇〇〇円が現金で支払われた。この時、原告留治は、政寅らと共に事務所を訪問し、別室で待機していた。

同日、原告留治は、信用金庫に同原告名義で六〇〇万円の定期預金を設定し、さらに、農協に別紙借入金明細書1ないし4、7〈1〉のとおり合計一〇〇〇万円の弁済をした(甲一三、一五、一七、一九、二〇、乙二九の七、三一の一三ないし一八)。

4  本件(2)の土地の売買等について

(1) 一士は、知人の金田栄吉から、安い土地があるので購入しないかと誘いかけられ、転売目的で本件(2)の土地を同人と共同購入することにした。

平成元年九月一三日、原告ら宅に、原告留治、政寅、一士、金田らが集まり、土地売買契約書(乙一八)が作成された。契約書が作成される前、一士は登記簿謄本を見て、土地の所有者が原告武となっていることを知ったが、原告留治と同武が親子関係にあることを金田から聞かされ納得の上で契約に至った。一士は政寅についてもこの時初めて知った。そして、一士は、各土地を合計一九四七万円で買い受け、手付金三〇〇万円を支払った。

(2) 同年一二月二二日、原告ら宅に、原告留治、政寅、一士らが集まり、原告留治同席の上で残代金一六四七万円が支払われた。

原告留治は、同日、同年一一月九日に信用金庫に設定した六〇〇万円の定期預金を解約し、農協に原告武名義で五〇〇万円の定期預金、同留治名義で一一〇〇万円の定期預金を設定し(これらは平成元年一二月末までに解約されていない)、さらに、農協に別紙借入金等明細書7〈2〉のとおり六三三万四六二四円を弁済をした(甲二〇、三二、乙二九の八及び九、乙三一の一八及び一九)。

三  本件各土地の売買代金について

以上説示したところに基づいて、本件各土地の売買価額について検討すると、前示二2、3、4によれば、本件各売買の主な動機は原告留治の借入金返済であり、同原告と鈴木が主導して取引が行われている上、原告留治は惣一らから受取った売買代金に見合う金額を資金として、同日中に預金及び同原告の債務弁済に充てるなどしてこれを管理・消費し、かくして前示各土地売買における売主側に属する債務である、売買物件に設定されている根抵当権の解除及び所有権移転に関係する義務の履行が可能となったものであり、これら土地売却の動機、各契約の締結の状況、代金の授受、原告らの債務弁済及び抵当物件の受戻し状況等の各事実に照らせば、原告武は、昭和六三年一一月二五日惣助に対し本件(1)の土地を売買代金三四八二万円で、平成元年九月一三日一士に対し本件(2)の土地を売買代金一九四七万円でそれぞれ直接譲渡し、また、原告留治は、昭和六三年一一月二五日惣助に対し本件(3)の土地を売買代金六一八万円で、平成元年一〇月二四日レヂデンスに対し本件(4)の土地を売買代金一七八二万五〇〇〇円でそれぞれ直接譲渡したものと認められる。

この点につき、原告らは、本件各土地の売買契約書はいずれも原告らと政寅との間の売買を掲げており、原告らは手付金をいずれも政寅から受取っていること、原告留治が転売に関与した訳は、政寅には農地取得資格がなく転売目的で買い受けたため、移転登記等の手続きに同原告の協力が必要であったこと、さらに、惣助、安中らは政寅名義の領収書を受取っていること、原告らは、惣助から振込まれた残代金のうち政寅に対し、原告武の妻(留治の実姉)から一五〇〇万円ほどの援助を受けて一九一九万円を支払って清算したことなどから、原告らは本件各土地をいずれも政寅に売却したものであると主張する。

確かに、本件各土地の売買契約にあたり、原告武あるいは原告留治と政寅との間の売買契約書が作成されており、惣助、レヂデンス宛の政寅名義の領収書も存在する。しかしながら、原告らが政寅から手付金を受領したとの事実を認定するに足りる的確な証拠はない上、同人に手付金を支払うだけの資力があったのか極めて疑わしく、また、乙一一、一二によれば、原告らの主張する政寅に生じた転売利益なる二六〇〇万円について、政寅は昭和六三年度と平成元年度のいずれの確定申告時にも所得申告しておらなかった上、平成二年に同人が死亡した際にも目立った相続財産はなかったなど、同人が転売利益を享受した形跡はうかがえない。加えて、当時債務整理に追われていた原告らが政寅に支払ったという一九一九万円のうち現金一五〇〇万円を家族の協力で即座に用意したというのは、如何にも不自然である。

したがって、原告らの主張は採用できない。

四  原告武についての所得税法六四条二項の適用

原告武が、本件(1)の土地を譲渡し、その代金の一部を保証債務の弁済に充てたことは争いがない。

ところで、同項は、保証債務履行のため資産が譲渡され、求償権の行使が不能である場合は、譲渡人がその代金を所得とし得ないことから、その部分の金額は収入がなかったものとみなして、譲渡収入金額を計算することを認めるものである。したがって、保証人が当初から主たる債務者に弁済能力がないことを知りながらあえて保証債務を負担し、あるいは主たる債務者の資力等から見て求償権行使が可能であるにもかかわらず、これを放棄した場合には、実質的には、主たる債務者に対し、譲渡代金相当の贈与あるいは利益供与がなされたと同様であるので、資産譲渡に掛かる所得は実現したと見られ、したがって、「求償権の行使が不能になったとき」に該当せず、同項の適用はないというべきである。

そこで、本件についてみるに、前示二1の事実によれば、原告留治は、昭和六一年四月には農協に対し一五〇〇万円以上の債務を負担していた上、同年七月には三〇〇〇万円を温泉のボーリング事業資金として借り入れたものの、同事業には着手せず、昭和六二年四月には郡山市議会議員選挙に立候補し、右資金の大半を選挙運動に使用したが落選し、その時点において温泉事業の収益及び議員歳費からのいずれの収入をも見込めない状況に陥り、加えて本件(4)の土地については農協に対しすでに一五〇〇万円の根抵当権が設定されていたことが認められる。したがって、遅くとも昭和六二年四月の段階においては、原告留治に債務の弁済能力がなかったと認められ、原告武は、そのことを十分に認識していたと認められる。そして、右状況は昭和六三年八月においても同様である。してみると、原告武は、本件保証債務を負担する際には、すでに原告留治が資力を喪失しており、以後の収入のあてもないことを知った上で、あえて養子である同人のために債務を保証したものと認められる。

なお、原告武は、原告留治が弁済の資力を有していた昭和六一年八月において行った借り入れを保証していたところ、その後同原告は資力を喪失したため、同債務整理のために借り換えをせざるをえず、昭和六二年に借り換えをし、さらに同六三年八月に再び借り換えをし、原告武は当初からのその保証人となっていたのであるから、原告武が保証債務を負担したと見るべき時期は最初の保証債務を負った昭和六一年八月と考えるべきであり、そのときには原告留治には事業の成功による弁済の可能性があり、その後資力を喪失したのであるから、本件(1)(2)の土地譲渡には六四条二項の適用が認められるべきであると主張している。

しかしながら、前示のとおり、昭和六二年四月当時、すでに原告留治は弁済能力を喪失していたと認められ、また、昭和六二年の債務の借り換えをみるに、確かに昭和六二年八月の借入金の一部で昭和六一年七月の借入金を弁済していることが認められるものの、昭和六二年の借入れ先は農協で、弁済された債務は信用金庫に対するものであり、両債務は債権者を異にする上、原告武は農協からの借入れに際して新たに根抵当権を設定しており、両債務には同一性は認められない。

したがって、原告武の本件(1)の土地の譲渡は、所得税法六四条二項の保証債務履行のための資産譲渡に該当しないというべきであり、原告武の主張は失当で採用できない。(なお、本件(1)(2)の土地の売買代金の一部は別紙借入金等明細書5に、本件(2)の土地の売買代金の一部は同明細書7〈2〉の弁済に充てられているが同様にいずれの場合にも同項の適用はない)

五  結論

以上より、本件各土地についての売買金額は本件における被告主張のとおりであり、また、原告武の本件(1)(2)の土地譲渡代金による保証債務弁済には六四条二項の適用がない。争いのない計算方法によれば、原告らの納付税額は本件各更正処分のとおりである。

そして、前示二の各事実によれば、原告らに、重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分の要件が具備されていることは明らかであり、被告の原告らに対する各賦課決定処分にも理由がある。

よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 林美穂 裁判官 野口佳子)

別表一 (原告佐藤武について)

〈省略〉

別表二 (原告佐藤留吉について)

〈省略〉

別紙物件目録

〈省略〉

(別紙)

大槻農協の佐藤留治名義の借入金等明細書

〈省略〉

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